Undated / ESSAYS

第7回 久々期待の新人監督ダニス・タノヴィッチ

第7回 久々期待の新人監督ダニス・タノヴィッチ

混迷を極めた90年代の映画界にあって、久々に「本物の作家」が現れたと確信させたのが、ダニス・タノヴィッチである。彼の長編デビュー作「ノー・マンズ・ランド」(2001)は、ボスニア紛争という重いテーマを扱いながら、それを極上の不条理劇へと昇華させた傑作だ。

この映画の凄みは、戦場のど真ん中、敵味方の塹壕に挟まれた「ノー・マンズ・ランド(誰のものでもない土地)」という極限の閉鎖空間を舞台に選び、さらに「身体の下に地雷がセットされた兵士」という絶体絶命の状況を作り出したプロットの妙にある。

タノヴィッチは、この惨劇を単なる悲劇として描かない。むしろ、そこに介入してくる国連保護軍の無能さや、スクープを追うマスコミの醜悪さを皮肉たっぷりに描くことで、現代の戦争が持つ「メディア・イベント化」した側面を浮き彫りにする。

彼の演出は、新人離れした冷静さに満ちている。感情に訴えかける音楽やスローモーションを極力排し、乾いたユーモアを交えながら、事態が破滅へと向かう様子を淡々と、しかしスリリングに描き出す。最後に残される、地雷の上に横たわったままの兵士を捉えたロング・ショットの空虚さは、どんな反戦演説よりも雄弁に戦争の虚しさを物語っている。

映画界は常に「新しい才能」に飢えている。しかし、その多くは一発屋で終わるか、ハリウッドのシステムに飲み込まれて個性を失う。ダニス・タノヴィッチも、次作「美しき運命の傷痕」(2005)ではキェシロフスキの遺稿を映画化するという難題に挑んだが、そこで見せた映像の深さは、彼が単なる「アイデアの人」ではないことを証明している。彼のような「厳しい眼差し」を持った監督こそが、これからの映画の良心を守っていくに違いない。


Originally published by Tomohide Nakagawa